HF帯の電波がオーディオ機器に与える電波障害(アンプI)

 HF帯の電波が近隣のお宅のオーディオ機器に障害を起こす場合があります。放送受信中、オーディオ機器の再生中のいずれの場合にもSSBの音声が混入します。
 オーディオ機器のアンプ回路にSSB電波が混入する「アンプI」ではないかと推測できます。

★障害の確認

 知り合いの友人などの協力を得て、実際に試験電波を発射して障害の有無を確認します。また、電池動作ができる機器ならば障害のあった場所で乾電池で動作させて障害の有無を確認します。

★障害の対策

 調査段階で、電池でオーディオ機器を動かしてみて電波障害が起きない場合は、ACラインからの回り込みが考えられますので、ACラインフィルターをオーディオ機器側に入れます。電池で使用しても電波障害が止まらない場合は、オーディオ機器内部の回路に直接飛び込んでいるケースが考えられますので、メーカーで対策をおこなうことになります。

■内部改造を伴う対策はメーカーへ…オーディオ機器のメーカー対策依頼について

 当然のことですが、たとえ保証期間内であっても、分解したり内部を改造した機器の修理については、機器メーカーは保証していないのが一般的です。
 一般に家庭用電気製品の特にオーディオ機器の場合は、多くのメーカーがその機器を最寄りのサービスステーションに持ち込むことをお願いしています。
 従って、障害を解決するためには、障害がどの場合に起きるのかなど、状況をできるだけ詳しく調査して、そのメモを添付して対策を依頼することが大切です。
 このような電波障害の発生を確認したら、障害を受けている家庭の方と協力して、無線局側の対策を万全に取るのは当然ですが、どうしても障害が消えない場合には、機器メーカーのサービス部門に相談してみることをおすすめします。


【参考】JAIAが実施した実験から

 JAIA(日本アマチュア無線機器工業会)の電波障害対策委員会では、アマチュア無線の電波が他の機器に与える影響について実験をおこなっています。
 この実験には毎年JARLも協力をしていますが、このページでは「アマチュア無線の電波がCDラジカセに与える影響」についての実験をおこなった際の結果を紹介しましょう。

■実験環境について

 実験は、アマチュア局の隣の家のCDラジカセにアマチュア無線の電波が混入するという想定で、隣接する実験小屋を2棟使用しておこないました。
 一つの小屋には3.5〜50MHzの200Wの無線設備を設営し、SSBの電波を発射しました。アンテナは、3.5〜28MHzにダイポール、50MHzには4エレメントの八木を使用しました。
 一方、もう一つの小屋には、メーカーおよび型名の異なる4台のCDラジカセを設置して障害がどの程度発生するかを調査し、その評価と障害の対策について検討をおこないました。

 障害混入の調査は、家庭用AC100Vの電源を使用している時と乾電池を使用している場合についてもおこないました。
 障害混入の評価は、測定器を接続すると障害の程度が大きく変化するため、測定器を使用せずに5段階の感応評価としました。

■実験の結果

 実験は、CDラジカセのラジオ(AM、FM)、CDプレーヤー、カセットテープ再生時の3種類の使用状況を想定し、各周波数帯での影響を調査しました。

1.ラジオ使用時
 3.5〜14MHzの電波に対して、ラジオ受信帯域内(AM放送帯域およびFM放送帯域)に何カ所かの障害が認められました。
 これは、周波数関係によるスプリアスの受信であるため、今回の実験では評価と対策についてはおこないませんでした。
 なお、低周波回路への直接の混入は認められませんでした。

2.CDプレーヤー使用時
 CDプレーヤー使用時については、どの周波数帯の電波に対しても音飛びや低周波回路への障害は確認されませんでした。

3.カセットテープ再生時
 3.5〜14MHz の電波に対しては、特に障害は確認されませんでしたが、21MHzと28MHzの電波に対しては、実験機により多少のレベル差はありましたが、低周波部分への回り込みによる障害が認められました。
 また、50MHz帯の電波に対しては、4台すべてのCDラジカセで障害が顕著に確認されました。

■対策の検討

 実験の結果から、カセットテープ再生時に音声が混入する原因の追究と障害を取り除く対策方法について検討をおこないました。

1.ACラインの対策
 障害のレベルが乾電池使用時にはいくらか軽減することから、ACラインからの混入が考えられました。用意したACラインフィルターの挿入とラジカセのACコードにトロイダルコアを巻きつけた時の効果を実験してみました。
 この結果、ACラインフィルターの挿入およびトロイダルコアの巻きつけ共に障害の程度の改善が確認されましたので、程度の軽い障害については、この対策で改善されるものと思われます。
2.テープヘッドまわりの対策
  今回の実験では、ACラインの対策をおこなっても完全に障害がなくならないことから、テープヘッドおよびヘッドアンプへの対策を試してみました。
3.パスコンの取りつけ
 ヘッドアンプの入力側にパスコン(バイパス・コンデンサー)を取りつけましたが、効果は確認できませんでした。
4.基板上のアースへの対策
 基板のアース配線を確認したところ、ヘッドアンプとメインアンプ間のグランドが非常に離れていることやパターン的に引き回されていることが判明しました。
 このため、アースとアース間をジャンパー線でつないだところ、ほぼ障害を取り除くことができました。

★      ★

 CDラジカセを含めオーディオ機器は、基本設計が低周波重視されていることもあって、個々の回路の基板上のアースパターンが長く、高周波的にグランドとしての効果があまりないようです。
 JAIAがおこなった実験では、ジャンパー線でアースパターンを電気的に短くすることにより高周波的なアースが強化されて、直接アンプ回路に飛び込む障害に対して効果を発揮したものと思われます。実験ということもあって機器の内部への対策を試みていますが、アマチュア局がこのような対策を施すのは、大きなリスクを伴いますので、内部改造を伴う対策は、メーカーに依頼されることをおすすめします。