市販PLCモデムの評価実験について

 JARLでは、高速電力線通信推進協議会(PLC-J)と共同で日本アマチュア無線機器工業会(JAIA)の協力を得て、昨年12月に発売された松下電器産業(株)製OFDM方式のPLCモデム「BL-PA100KT」を使用して、アマチュア局とPLCシステムの相互の干渉について実験をおこないました。

 PLCシステムの設置場所である集合住宅、戸建て住宅の屋内電力配線は、それぞれの配線状況、冷蔵庫などの家電品の接続状況など千差万別であり、負荷条件は時刻と共に常に変動しています。従ってPLCシステムからの漏洩電磁界の測定では、それぞれその場所の、その瞬間における測定値であり、常に絶対値を求める事は不可能です。

 したがって、今回おこなった2カ所の実験値は、それぞれの限られた条件下の測定結果の一例を示すものであり、別の設置条件下では異なる結果となることを念頭に置いて、検討しなければなりません。

 実験の概要について、次のとおり説明します。

  1. 実験の概要

    (1)実施日

     (a)市街地の住宅 平成19年2月8日(木)〜9日(金)
     (b)郊外の住宅  平成19年2月13日(火)〜14日(木)
    (2)実験場所
     (a)市街地の住宅 東京都大田区内
     (b)郊外の住宅  東京都多摩市内
    (3)実験項目と実験概要
     一般家屋にPLCシステムが設置された場合に、このシステムからの漏えい電磁界がどの程度発生するのか、情報通信審議会情報通信技術分科会CISPR委員会で検討された背景雑音レベルと実測値との相関について検証をおこないました。また、アマチュア無線局からの電波が、PLCシステムに与える影響について併せて確認をおこないました。

    ●「項目」
    (a)PLCシステムのアマチュアバンドへの影響確認
     PLCモデムを介して接続されたパソコン1対向を通信(UDP伝送)させ、アマチュアバンド及びバンド外の漏洩の程度を調査する。
    (b)アマチュア無線の運用がPLCシステムに与える影響の確認
    (c)EMCレシーバにより背景雑音を測定する。
     (a)〜(c)について、市街地の集合住宅に設置されたアマチュア局と郊外の戸建て住宅に設置されたアマチュア局の二例について実験をおこなう。

  2. 市街地での実験

     市街地での実験では、アマチュア移動局を鉄骨コンクリート3階建て集合住宅の2階の部屋に設置しました。
     アンテナは、2階ベランダに車載用の短縮型ホイップアンテナを2本使用したL形アンテナを設置し、トランシーバはIC-736M(送信用)、IC-756PROV(受信評価用)を使用しました。
     また、この集合住宅と約10m離れた一戸建ての住宅の1階にPLCモデム、パソコンを設置し、動作時と非動作時の屋内電力線からのPLC信号の漏えい電波によるアマチュア局への影響を調査しました。また、アマチュア局からの電波がPLCシステムに与える影響の概要を確認しました。


    集合住宅での実験環境(位置関係)

     実験場所の配置図を上に示します。
     実験場所の都市環境は、住宅密集地でかつ商業地域にも属し、背景雑音が高い地域でした。
     このような環境の中で、1階和室内のコンセントBと階段途中の踊り場にあるコンセントCを使用してそれぞれPLCモデム(型名BL-PA100KT)及びパソコンを接続し1対向の通信回線を構成してデータを送り、この時の漏えい電磁界の電界値の周波数分布を実測し、同時にアマチュア局が電波を発射したときのPLCの通信速度におよぼす影響について確認をおこないました。屋内の電力線の配線状況は不明です。

    「参考」 実験に使用した機材

    • トランシーバ  IC-736M(送信用)、IC-756PROV(受信用)
         Band Width  SSB 2.4kHz、AM 6kHz
    • アンテナ  短縮型ホイップアンテナ
    • PLCモデム BL-PA100KT (コモンモード電流の測定結果を右図に示す)
    • アンテナチューナ AH-4(アンテナワイヤー長6m)
    • EMI受信機  ESU26 Rohde & Schwarz

    (1)PLCシステムからの漏えい電波の影響

    (a) アマチュアバンドについては、7MHz、10MHz、14MHz、18MHz、21MHz、24MHz、28MHz及び50MHzにおいて、PLCモデムをON(モデム間での通信)及びOFF(モデム間での通信停止)の状態においてそれぞれ受信評価用トランシーバとEMI受信機により、背景雑音の変化を測定しました。

     アマチュアバンドについては、ノッチ(実際にはフイルタによるものではなく、OFDM方式のPLCモデムでは、アマチュアバンドに対応するサブキャリアを使用しない方式となっています。)により、PLCモデムをON、OFFしてもSメータの指示値に変動は認められず、また、聴感上も変化が認められませんでした(ただし、7MHz〜18MHzまでは背景雑音が高く、変化を確認することはできませんでした)。
    (b) アマチュアバンド以外については、3.5MHzからほぼ500kHz間隔で30MHzまでの周波数帯を(a)と同じ方法により測定しました。
     この測定に使用したアンテナは、集合住宅屋上から2階ベランダまでロングワイヤーを張り、アンテナチューナ(AH-4)を介して測定周波数範囲の下端のアマチュアバンドで同調を取り測定を実施しています。

     PLCシステムからの漏えい電磁界は、11MHz〜27.5MHzはSメータで確認ができました。しかし、背景雑音レベルが高い周波数帯では、モデムのON、OFFによるノイズ変化を聴感でも確認することはできませんでした。

    (2)アマチュア局の電波がPLCシステムに与える影響の確認

     アマチュア局からの電波によるPLCシステムに与える影響については、PLCシステムが設置される屋内配電線の状況、家電製品の使用状況とアマチュア局の使用する空中線の種類など周囲の状況によって非常に変化します。

     PLCシステムにおいてモデム間の伝送速度が、屋内配線の状況によってある程度より遅い環境では、アマチュア局の放射電磁界により、PLC伝送速度の低下あるいは停止などの影響が出やすく、また、モデム間の伝送速度が充分速い環境では影響が出にくい傾向があることが確認されました。

    市街地(大田区)における背景雑音と漏えい電界強度の比較


     上の両グラフとも同様の傾向が示され、20MHz以下の周波数帯では、14〜15MHzのところで漏えい電磁界が背景雑音レベルの閾値を上回っているが、ほぼ背景雑音と漏えい電磁界強度が一致している。
     20MHz以上の周波数帯では、22MHz〜24MHz及び25MHz〜28MHzまでの周波数で背景雑音レベルの閾値を10dB程度漏えい電磁界が上回っている。


  3. 郊外での実験

     実験場所は、多摩市内の比較的高台にある閑静な住宅地を選定しました。背景雑音も大田区にくらべ格段に低く、ITU-Rの勧告にある田園地帯のレベルに近いと想定されます。

    郊外(多摩)の住宅での実験環境(位置関係)

     アマチュア局を開設している家とモデムを設置した家との位置関係は、上図のとおりです。
     PLCモデムは、幅6mの道路をはさんで、アマチュア局の向かいの家の玄関にあるコンセントと応接間にあるコンセントを利用して、一対向のPLC通信回線を構成させてデータを伝送(UDP伝送)し、この時の漏えい電磁界の状況及びアマチュア局からの電波を発射したときのモデムへの影響について、市街地(東京・大田区)の場合と同様な実験をおこないました。
     PLC回線を形成する.屋内電力線の配線状況は不明ですが、PLC伝送速度はかなり速い値(65Mbps程度)を示していました。

    参考 アマチュア局の設備

    クランクアップタワー (22m高)
    空中線 1.9MHz用垂直アンテナ
    3.5MHz用垂直アンテナ
    7MHzダイポール
    14、21、28MHz用八木型(TH7DX)
    10、18、24MHz用八木型(T3-3VXX)
    空中線電力 50W、1kW

    (1)PLCシステムからの漏えい電磁界の影響

    (a) 各アマチュアバンドについては、まずタワーを22mの高さにして測定、その後5mずつ下げて測定したが、いずれも集合住宅の場合と同様にPLCモデムON、OFFともSメータの指示、聴感とも背景雑音以下で変化がありませんでした。
    (b) アマチュアバンド外については、3.5MHz用の垂直アンテナにアンテナチューナ(AH-4)を介してトランシーバに接続。
     PLCシステムを設置した家の外壁から受信用アンテナの距離は15mであり、この時のPLCシステムからの漏えい電磁界の強度を周波数帯ごとに測定を実施しました。
     3.5MHz〜28MHzのうちある範囲でノイズの増加が見られました。
     これは、トランシーバ(IC-756PROV)のバンドモニターにも顕著に表れ、背景雑音よりもSメータで1〜2程度雑音が増加しているのがわかりました。東京・大田区の背景雑音の高い地域に比べ、多摩地区では背景雑音が少ないために、漏えい電磁界が背景雑音レベルを上回るためPLCの放射電磁界が雑音として浮き出てきます。  なお、モデムOFF時の測定は、モデムのACプラグをコンセントから抜いて計測しています。
     また、背景雑音と漏えい電界強度の測定時刻は、いずれも13:00〜15:00の間に測定しました。

    (2)アマチュア局からの電波がPLCシステムに与える影響の確認

     電波を発射する周波数帯によっては、伝送速度の低下が認められました。

    郊外(多摩)における背景雑音と漏えい電界強度の比較


     各アマチュアバンドは、いわゆるノッチが入っているため、市街地同様PLCモデム ON、OFFともSメータの指示だけでなく聴感上も変化が認められなかった。アマチュアバンド以外の周波数では、背景雑音が少ない地域であり、漏えい電磁界強度は図のように周波数帯によっては漏えい電磁界が背景雑音レベルの閾値を10dB〜十数dB 程上回る値が認められた。


  4. 今後の課題とまとめ

    (1) 今回の実験は、松下電器産業(株)製 OFDM方式のPLCモデム「BL-PA100KT」を使用しておこないましたが、今後は、今回のモデムの実験結果を基準として、今後発売が予想されるSS方式などを含む他社製品についても、比較検討をおこないアマチュア無線の周波帯への影響を検証していく必要があります。
    (2) PLC-Jでは、現在PLCモデムの統一規格の制定に向けて検討をおこなっていますが、この規格にはアマチュアバンドにノッチを設けることを予定しています。
     しかし、モデムの統一規格は、PLC-Jのみの規格となっている現状なので、今後はARIBの標準規格とし、また、PLC-Jに加盟していないメーカも、必ず加盟するようPLC-J及びARIBから働きかけることが必要と考えますので、JARLからも強く申し入れています。
    (3) 「BL-PA100KT」は、アマチュアバンドにノッチを設けているため、実験結果では、アマチュアバンドへの影響は認められませんでした。今後とも共存条件が重要であることから、全てのモデムにはノッチを設けることを義務づけるようにする必要があります。
    (4) アマチュア局からの電波がPLCシステムに与える影響は、アマチュア局のアンテナとPLCシステムが接続された屋内電力線の配線の高さが等しいような場合に伝送の停止や伝送速度の低下などの影響が出やすい傾向にあります。また、アマチュア局のアンテナがタワー上に設置されるなど地上高が高い場合は、このような影響が出にくい傾向が見られました。
    (5) 屋内の電力線の平衡度(整合)が悪い場合には、PLCシステム間の伝送速度が15Mbps程度となり、アマチュア局からの電波により伝送速度の低下などの影響を受けやすく、また、同一部屋のコンセント間などシンプルな配線状況では平衡度が良いと考えられ、カタログ値に示されている85Mbpsに近い65Mbps〜70Mbps程度の伝送速度が認められ、このような場合はアマチュア局からの電波による影響がほとんどなくなる傾向が見られました。


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